1月 29 2015
遺言書を作成すべきケース③~以前の配偶者との間に子どもがいる
夫婦のどちらか,あるいは両方が離婚と再婚を経験していて,しかも離婚する前の相手との間に子どもがいる。
こんなケースも遺言書を作成すべき典型的なケースです。
具体例で考えてみましょう。
愛知県内に住む相続太郎さん(64歳)は,現在,妻の絵里子さん(58歳),絵里子さんとの間の子である隆介さん(29歳)と暮らしていますが,離婚歴があります。
以前の妻であった裕子さん(62歳)との間には,桜さん(38歳)がいますが,裕子さんが引き取って育てたこともあり,太郎さんは桜さんにもう20年以上会っていないし,今どこに住んでいるのか,何をしているのかも分かりません。
絵里子さん,隆介さんは,桜さんとは一度も会ったことがありません。
こんななか,太郎さんは病気になり,まもなく亡くなってしまいました。
太郎さんの財産としては,自宅マンション,A銀行の預金900万円,B銀行の預金600万円がありました。
<太郎さんに遺言書がない場合>
絵里子さんが相続手続きをしようとインターネットで調べてみたところ,桜さんにも相続権があることが分かりました。
自宅マンションの名義を絵里子さんにするためにも,預貯金の名義変更をするのにも桜さんに印鑑を押してもらう必要があることが分かりました。
そこで,絵里子さんは司法書士に依頼して桜さんについて調べてもらったところ,桜さんは,現在,新潟県に住んでいることが分かりました。
絵里子さんは,桜さん宛ての手紙を書いて,太郎さんが亡くなったこと,相続手続きをする必要があること,一度話し合いをしたいことを伝えました。
そうしたところ,桜さんから返事があり,絵里子さんと桜さんとの話し合いが新潟県内で行われました。
その結果,自宅マンションは絵里子さんと隆介さんが相続し,預貯金を3人で分けることが決まりました。
桜さんは,幸いにも印鑑証明書の取得や遺産分割協議書への押印をスムーズにやってくれたため,何とか相続手続きを終えることができました。
どうでしょうか?
「けっこう大変だな」と感じなかったでしょうか?
<太郎さんに遺言書がある場合>
太郎さんは,生前,弁護士に相談して公正証書遺言を作成していました。
具体的には,自宅マンションを絵里子さんと隆介さんに2分の1ずつ相続させ,A銀行の預金は絵里子さん,隆介さんに2分の1ずつ,B銀行の預金は桜さんに相続させ,遺言書に記載のない財産については絵里子さんに相続させるというものでした。
太郎さんが亡くなったあと,公正証書遺言によって遺言執行者に指定されていた弁護士は,絵里子さんから太郎さんが亡くなったことを聞き,遺言執行者としての活動を始めました。
具体的には,戸籍謄本等を調査して桜さんの現住所等を調べ,相続財産の目録を作成し,遺言書のコピーを添えて桜さんに郵送しました。
桜さんからは,預金の受け取り先となる銀行口座を教えてもらいました。
桜さんに印鑑証明書を取得してもらったり,遺産分割協議書に押印してもらったりする必要はありませんでした。
こうして,マンションの名義変更と預金の名義変更も滞りなくすみやかに終了しました。
どうでしょう?
遺言書のあるなしで相当の違いがあると感じられる方が多いのではないでしょうか。
今回は,離婚相手が子どもを引き取っていたケースを例に取りましたが,子どもを連れて再婚した場合,再婚相手とそのお子さんの間には血縁関係がありません。
養子縁組を検討するケースですが,養子縁組をするにしてもしないにしても,遺言書を作成しておくべきことに変わりはありません。