4月 20 2015
民法上の「相続の放棄」と「遺産を取得しない遺産分割協議」との違い
相続に関するご相談や打合せをしていると,「私は,そのとき相続を放棄しました」という言葉を聞くことがあります。
「相続放棄」という言葉はよく使われますが,民法上の「相続の放棄」とは異なる意味で使われていることもあるため,注意が必要です。
民法938条にいう「相続の放棄」は,家庭裁判所に申述をすることによって,当該相続に関して,初めから相続人とならなかったものとみなされるというものです。
それに対して,日常用語で「相続を放棄した」という場合,「自分が遺産を何も取得しない内容の遺産分割協議書に署名して遺産分割協議を成立させた」という状況を示している場合があります。
上の2つは,一見違いがないようにも見えますが,重要な違いがあります。
それは,亡くなった方の債務(借金や未払いの税金など)についてです。
民法上の「相続の放棄」をした場合には,初めから相続人でなかったものとみなされるため,亡くなった方の債務を支払う義務はまったくありません。
それに対して,「自分が遺産を何も取得しない内容の遺産分割協議書に署名して遺産分割協議を成立させた」という場合,債務の支払いを免れることはできません。
なぜなら,「金銭債務は相続開始と同時に共同相続人全員にその相続分に応じて当然に承継されている」という内容の判例が確立されているため,プラスの財産を何も取得しない相続人でも債務については支払義務を引き継いでしまうからです。
したがって,亡くなった方に債務があるかもしれないという場合には,家庭裁判所に申述を行う「相続の放棄」をしておくのが無難です。