6月 25 2013
勘違い騎士道事件
刑法を学習していて一番印象に残る判例は,この「勘違い騎士道事件」ではないかなあと思います。
被告人が英国人であったため,「英国騎士道事件」と言ったりもします。
事案の概要は以下のとおり。
空手三段の腕前を有する在日英国人Xは,夜間帰宅途中の路上で,酩酊したA(女性)とこれをなだめてい たBとが揉み合ううち,Aが倉庫の鉄製シャッターにぶつかって尻もちをついたの を目撃した。
Xは,BがAに暴行を加えているものと誤解し,Aを助けるべく両者の間 に割って入った上,Aを助け起こそうとし,次いでBの方を振り向き両手を差し 出してBの方に近づいた。
すると,Bがこれを見て防御するため手を握って胸の 前辺りにあげてボクシングのファイティングポーズのような姿勢をとったため,XはBが自分に 殴りかかってくるものと誤信し,自分とAの身体を防衛しようと考え,とっさ にBの顔面付近に当てるべく空手技である回し蹴りをして,左足をBの右顔面付 近に当て,Bを路上に転倒きせて頭蓋骨骨折等の傷害を負わせ,8日後に右傷害 による脳硬膜外出血及び脳挫滅により死亡させた。
さて,何とも不幸な事案ですが,1審の千葉地裁では誤想防衛(正当防衛状況ではないのに正当防衛状況だと勘違いして正当防衛行為をした)であるとして無罪となりました。
2審の東京高裁では,誤想過剰防衛(正当防衛状況ではないのに正当防衛状況だと勘違いし,しかも防衛行為はやりすぎ)であるとして執行猶予付きの有罪判決になりました。
最高裁も同様の判断でした。
「誤想防衛」や「誤想過剰防衛」を勉強するときに必ず出てくる判例です。
Xがキリスト教に基づく騎士道精神を発揮しておかしなことになってしまったということで,「勘違い騎士道事件」という名前が付いています。